とも大方は察しておろう。わが面体《めんてい》を後のかたみに残さんと、さきにその方を召し出し、頼家に似せたる面《おもて》を作れと、絵姿までも遣《つか》わしておいたるに、日を経《ふ》るも出来《しゅったい》せず、幾たびか延引を申し立てて、今まで打ち過ぎしは何たることじゃ。
五郎 多寡《たか》が面一つの細工、いかに丹精を凝らすとも、百日とは費すまい。お細工仰せつけられしは当春の初め、その後すでに半年をも過ぎたるに、いまだ献上いたさぬとはあまりの懈怠《けたい》、もはや猶予は相成らぬと、上様《うえさま》の御機嫌《ごきげん》さんざんじゃぞ。
頼家 予は生まれついての性急じゃ。いつまで待てど暮せど埒あかず、あまりに歯痒《はがゆ》う覚ゆるまま、この上は使いなど遣わすこと無用と、予がじきじきに催促にまいった。おのれ何ゆえに細工を怠りおるか。仔細をいえ、仔細を申せ。
夜叉王 御立腹おそれ入りましてござりまする。もったいなくも征夷大将軍、源氏の棟梁《とうりょう》のお姿を刻めとあるは、職のほまれ、身の面目、いかでか等閑《なおざり》に存じましょうや。御用うけたまわりてすでに半年、未熟ながらも腕限り根かぎりに、夜昼
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