し、夜いくさじゃ。うろたえて同士撃《どしう》ちすな。
兵 はっ。
行親 一人はこれより川下へ走せ向うて、村の出口に控えたる者どもに、即刻かかれと下知《げじ》を伝えい。
兵一 心得申した。
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(一人は下手に走り去る。行親は一人を具して上手に入る。木かげより春彦、うかがい出づ。)
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春彦 大仁《おおひと》の町から戻《もど》る路々《みちみち》に、物の具したる兵者《つわもの》が、ここに五人かしこに十人|屯《たむろ》して、出入りのものを一々詮議するは、合点《がてん》がゆかぬと思うたが、さては鎌倉の下知によって、上様を失いたてまつる結構な。さりとは大事じゃ。
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(遠近《おちこち》にて寝鳥《ねとり》のおどろき起つ声。下田五郎は橋を渡りて出づ。)
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五郎 常はさびしき山里の、今宵は何とやらん物さわがしく、事ありげにも覚ゆるぞ。念のために川の上下《かみしも》を一わたり見廻《みまわ》ろうか。
春彦 五郎どのではおわさぬか。
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