しますに……。
頼家 ええ、くどい奴。おのれらの言うこと、聴くべき耳は持たぬぞ。退《すさ》れ、すされ。
行親 さほどにおむずかり遊ばされては、行親申し上ぐべきようもござりませぬ。仰せに任せて今宵はこのまま退散、委細は明朝あらためて見参の上……。
頼家 いや、重ねて来ること相成らぬぞ。若狭、まいれ。
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(頼家は起ち上りて桂の手を取り、打ち連れて橋を渡り去る。行親はあとを見送る。芒のあいだに潜みし軍兵《つわもの》出づ。)
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兵一 先刻より忍んで相待ち申したに、なんの合図もござりませねば……。
兵二 手を下すべき機《おり》もなく、空しく時を移し申した。
行親 北条殿の密旨を蒙《こうむ》り、近寄って討ちたてまつらんと今宵ひそかに伺候したるが、さすがは上様、早くもそれと覚《さと》られて、われに油断を見せたまわねば、無念ながらも仕損じた。この上は修禅寺の御座所へ寄せかけ、多人数一度にこみ入って本意を遂ぎょうぞ。上様は早業の達人、近習《きんじゅう》の者どもにも手だれあり。小勢の敵と侮りて不覚を取るな。場所は狭
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