をもって、素性《すじょう》も得知れぬ賤《いや》しの女子どもを、おん側近う召されしは……。
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(桂は堪えず、すすみ出づ。)
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かつら 兵衛どのとやら、お身は卜者《うらや》か人相見か。初見参《ういげんざん》のわらわに対して、素姓賤しき女子などと、迂濶《うかつ》に物を申されな。妾《わらわ》は都のうまれ、母は殿上人にも仕えし者ぞ。まして今は将軍家のおそばに召されて、若狭の局とも名乗る身に、一応の会釈もせで無礼の雑言《ぞうごん》は、鎌倉武士というにも似ぬ、さりとは作法をわきまえぬ者のう。
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(冷笑《あざわら》われて、行親は眉をひそめる。)
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行親 なに。若狭の局……。して、それは誰に許された。
頼家 おお、予が許した。
行親 北条どのにも謀《はか》らせたまわず……。
頼家 北条がなんじゃ。おのれらは二口目には北条という。北条がそれほどに尊いか。時政も義時も予の家来じゃぞ。
行親 さりとて、尼御台《あまみだい》もおわ
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