。その望みもはかなく破れて、予に万一のことあらば、そちの父に打たせたるかのおもてを形見と思え。叔父の蒲殿《かばどの》は罪のうして、この修禅寺の土となられた。わが運命も遅かれ速かれ、おなじ路をたどろうも知れぬぞ。
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(月かくれて暗し。籠手《こて》、臑当《すねあて》、腹巻したる軍兵《つわもの》二人、上下よりうかがい出でて、芒むらに潜む。虫の声にわかにやむ。)
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かつら あたりにすだく虫の声、吹き消すように止みましたは……。
頼家 人やまいりし。心をつけよ。
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(金窪兵衛尉行親、三十余歳。烏帽子《えぼし》、直垂《ひたたれ》、籠手、臑当にて出づ。)
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行親 上《うえ》、これに御座遊ばされましたか。
頼家 誰じゃ。
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(桂は燈籠をかざす。頼家|透《すか》しみる。)
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行親 金窪行親でござりまする。
頼家 おお、兵衛か。鎌倉|
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