見るように、ぬらりくらりと取止めのないことばかり申し上げていたら、御疳癖がいよいよ募ろうほどに、こなたも職人|冥利《みょうり》、いつのころまでと日を限《き》って、しかと御返事を申すがよかろうぞ。
夜叉王 じゃと言うて、出来ぬものはのう。
僧 なんの、こなたの腕で出来ぬことがあろう。面作師も多くあるなかで、伊豆の夜叉王といえば、京鎌倉までも聞えた者じゃに……。
夜叉王 さあ、それゆえに出来ぬと言うのじゃ。わしも伊豆の夜叉王と言えば、人にも少しは知られたもの。たといお咎《とが》め受きょうとも、己《おの》が心に染まぬ細工を、世に残すのはいかにも無念じゃ。
頼家 なに、無念じゃと……。さらばいかなる祟《たた》りを受きょうとも、早急《さっきゅう》には出来ぬというか。
夜叉王 恐れながら早急には……。
頼家 むむ、おのれ覚悟せい。
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(癇癖募りし頼家は、五郎のささげたる太刀を引っ取って、あわや抜かんとす。奥より桂、走り出づ。)
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かつら まあ、まあ、お待ちくださりませ。
頼家 ええ、退《の》け、のけ。
かつ
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