ら まずお鎮まりくださりませ。面はただ今献上いたしまする。のう、父様。
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(夜叉王は黙して答えず。)
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五郎 なに、面はすでに出来しておるか。
頼家 ええ、おのれ。前後|不揃《ふぞろ》いのことを申し立てて、予をあざむこうでな。
かつら いえ、いえ、嘘《うそ》いつわりではござりませぬ。面はたしかに出来しておりまする。これ、父様。もうこの上は是非がござんすまい。
かえで ほんにそうじゃ。ゆうべようやく出来したというあの面を、いっそ献上なされては……。
僧 それがよい、それがよい。こなたも凡夫じゃ。名も惜しかろうが、命も惜しかろう。出来した面があるならば、早う上様にさしあげて、お慈悲をねがうが上分別じゃぞ。
夜叉王 命が惜しいか、名が惜しいか。こなた衆の知ったことではない。黙っておいやれ。
僧 さりとて、これが見ていらりょうか。さあ、娘御。その面を持って来て、ともかくも御覧に入れたがよいぞ。早う、早う。
かえで あい、あい。
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(かえでは細工場へ走り入りて、木彫の仮面《めん》を入
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