めん》一個《ひとつ》が中心となって、芸術本位の親父《おやじ》や、虚栄心に富んだ近代式の娘などが作り出される事になったので……狂言の種を明せばそれだけです。頼家の最期は故《わざ》と蔭にしました。
 仮面《めん》の事は私もよく知りませんが、藤原時代から鎌倉時代にかけて、十人の名人があって、世にこれを十作《じっさく》と唱えます。夜叉というのはその一人《いちにん》で、実は越前大野郡《えちぜんおおのごおり》の住人ですが、夜叉という名が面白いのでちょっとここへ借用しました。この夜叉王は徹頭徹尾《てっとうてつび》芸術本位の人で、頼家が亡びても驚かず、娘が死んでも悲《かなし》まず、悠然として娘の断末魔《だんまつま》の顔を写生するというのが仕所《しどこ》で、最初《はじめ》から左団次を狙って書いたのですから多分巧く演《や》ってくれるだろうと思います。
 姉娘を演《す》る優《ひと》のないには困りました。源之助で不可《いけず》、門之助で不可、何分にも適当の優《ひと》が見当らないので、結局|寿美蔵《すみぞう》に廻りましたが、本来は宗之助か秀調《しゅうちょう》という所でしょう。寿美蔵は飛《とん》だ加役を引受けて気
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