の怪談は九尾の狐ばかりでなく、大抵は三国伝来で、日本固有のものは少ないのであるから、これも何か支那の小説か伝説がわが国に移植されたものではないかとも想像されるが、出所が判然《はっきり》しないので確かなことは云えない。
 さて、それから芝居の方であるが、これは専門家の渥美さんに訊いた方がいい。現にわたしも渥美さんに教えられて、初代並木五瓶作の「袖簿播州廻《そでにっきばんしゅうめぐり》」をくりかえして読んだ。角書《つのがき》にも姫館妖怪《ひめやかたようかい》、古佐壁忠臣《こさかべちゅうしん》と書いてあるのをみても、かの小坂部を主題としていることはわかる。二つ目の姫ヶ城門前の場とその城内の場とが即ちそれであるが、この狂言では桃井家の後室|碪《きぬた》の前がこの古城にかくれ棲み、妖怪といつわって家再興の味方をあつめるという筋で、若殿陸次郎などというのもある。これは淀君と秀頼とになぞらえたもので、小坂部の怪談に託して豊臣滅亡後の大坂城をかいたのである。現に大坂城内には不入《いらず》の間があって、そこには淀君の霊が生けるがごとくに棲んでいるなどと伝えられている。それらを取り入れて小坂部の狂言をこし
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