かず、奉公人ともつかずに連れ歩いている崔英《さいえい》という十五、六歳の少女は、五、六年前に旅先で拾って来たのだそうで、なんでも李が旅興行をして歩いているうち、その頃は今ほどの人気役者ではなかったので、田舎の小さな宿屋にくすぶっていると、そこに泊り合せた親子づれの旅商人《たびあきんど》があって、その親父の方は四、五日わずらって死んだ。その病中、李は親切に世話をしてやったので、親父も大層よろこんで、死にぎわに自分のあとの事をいろいろ頼んだそうだ。頼まれて引取ったのがその娘の崔英で、まだ十一か二の小娘であったのを、自分の手もとに置いて旅から旅を連れてあるいているというのだ。一事が万事、まずこういった風であるから、彼は一座の者から恨まれているような形跡はちっともなかった。それであるから、彼は蘇小小の霊に誘われて死んだということにして置けば、まことに詩的な美しい最期となるのであったが、意地のわるい役人たちはどうもそれでは気が済まないとみえて、さらに一策を案じ出した。勿論、最初から湖畔の者に注意して、何か怪しい者を見たらばすぐに訴え出ろと申付けてはおいたのだが、別に二人の捕吏《ほり》を派出して、
前へ
次へ
全26ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング