り次第にバスケットへつかみ込んで出た。それから紀尾井町、目白、麻布と転々する間に、そのバスケットの底を叮嚀《ていねい》に調べてみる気も起らなかったが、麻布に一先《ひとま》ず落ちついて、はじめてそれを検査すると、幾束かの切抜きがあらわれた。それは何かの参考のために諸新聞や雑誌を切抜いて保存しておいたもので、自分自身の書いたものは二束に過ぎないばかりか、戯曲や小説のたぐいは一つもない、すべてが随筆めいた雑文ばかりである。その随筆も勿論全部ではない、おそらく三分の一か四分の一ぐらいでもあろうかと思われた。
それだけでも掴《つか》み出して来たのは、せめてもの幸いであったと思うにつけて、一種の記念としてそれらを一冊に纏《まと》めてみようかと思い立ったが、何かと多忙に取りまぎれて、きょうまでそのままになっていたのである。これも失われずに残されている物であると思うと、わたしは急になつかしくなって、その切抜きを一々にひろげて読みかえした。
わたしは今まで随分沢山の雑文をかいている。その全部のなかから選み出したらば、いくらか見られるものも出来るかと思うのであるが、前にもいう通り、手当り次第にバスケッ
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