十番雑記
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陰《くもり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)震災以来|殆《ほとん》ど

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十二年十二月二十日)
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 昭和十二年八月三十一日、火曜日。午前は陰《くもり》、午後は晴れて暑い。
 虫干しながらの書庫の整理も、連日の秋暑に疲れ勝ちでとかくに捗取《はかど》らない。いよいよ晦日《みそか》であるから、思い切って今日中に片附けてしまおうと、汗をふきながら整理をつづけていると、手文庫の中から書きさしの原稿類を相当に見出した。いずれも書き捨ての反古《ほご》同様のものであったが、その中に「十番雑記」というのがある。私は大正十二年の震災に麹町《こうじまち》の家を焼かれて、その十月から来年の三月まで麻布の十番に仮寓していた。ただ今見出したのは、その当時の雑記である。
 私は麻布にある間に『十番随筆』という随筆集を発表している。その後にも『猫柳』という随筆集を出した。しかも「十番雑記」の一文はどれにも編入されていない。傾
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