お初は江戸から甲州へ流れて来て、鰍沢あたりの小料理屋に奉公していたのを、吉五郎が引っこ抜いて来て、自分の家の近所に囲って置いたのです。お初も如才ない女ですから、うまく親分に取り入って、なんでも言う目が出るという贅沢ざんまいで、ずいぶん派手に暮らしていたそうです。それが今度、かの六三郎とこんな訳になってしまって、しまいにはだんだんに増長して、真っ昼間でも自分の家へ男を引っ張り込むという始末になったもんですから、小屋主ももう打っちゃっては置かれなくなりました。
これが普通のお大尽の持ち物かなんぞならば、万一そのことが露《ば》れたとしても差したる面倒も起こらず、女がお払い箱になるくらいのことでけりが付くんでしょうけれども、相手が長脇差の大親分ではなかなかそんなことでは済む筈がありません。不埒を働いた女はいうに及ばず、男もどんな目に逢うか知れませんし、これにつながる小屋主その他の関係者もどんな飛ばっちりを受けないとも限りませんから、内心ではらはらしていたのです。で、一座の座頭《ざがしら》にもわけを話して、座頭と太夫元の二人から六三郎にむかってくれぐれも意見をしました。
座頭は、もしこれがば
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