意味に於いては主人のお家を呪うものとも見られます。師匠が固く戒めたのもそこの理窟で、それは森垣さんも万々心得ているのですが、そこが人情、吹くなと云われると何うも吹いて見たくて堪らない。それでも三年ほどは辛抱していたのですが、もう我慢が仕切れなくなって来ました。うっかり吹いたらばどんなお咎めをうけるかも知れない、まかり間違えば死罪になるかも知れない。それを承知していながら、何分にも我慢が出来ない。どうも困ったことになったものです。
 それでも初めのうちは一生懸命に我慢して、巻物の譜を眺めるだけで堪《こら》えていたのですが、仕舞にはどうしても堪え切れなくなって来ました。なんでも八月十四日の晩だそうです。あしたが十五夜で、今夜も宵から月のひかりが皎々と冴えている。森垣さんは縁側に出てその月を仰いでいると、空は見果てもなしに高く晴れている。露のふかい庭では虫の声がきこえる。森垣さんはしばらくそこに突っ立っているうちに、例の落城の譜のことを思い出すと、もう矢も楯も堪らなくなりました。今夜こそはどうしても我慢が出来なくなりました。
「その時は我ながら夢のようでござった。」と、森垣さんはわたくしに話
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