。だん/\仔細をきいて、みんなも顔をしかめたが、半蔵の二の舞はおそろしいので、誰も進んで奥へ見とゞけに行くものがない。しかし小半時ほど立っても、奥の座敷はひっそりとしているらしいので、三人が一緒に繋がって怖々ながら覗きに行くと、今宮さんは鎧櫃を座敷のまん中へ持出して、それに腰をかけて腹を斬っていました。
[#改段]

人参

       一

 その日は三浦老人の家《うち》で西洋料理の御馳走になった。大久保にも洋食屋が出来たという御自慢であったが、正直のところ余り旨くはなかった。併しもと/\御馳走をたべに来たわけでないから、わたしは硬いパンでも硬い肉でも一切鵜呑みにする覚悟で、なんでも片端から頬張っていると、老人はあまり洋食を好まないらしく、且は病後という用心もあるとみえて、ほんのお附合に少しばかり食って、やがてナイフとフォークを措いてしまった。
「わたしには構わずに喫《た》べてください。」
「遠慮なく頂戴します。」と、わたしは喉に支えそうな肉を一生懸命に嚥《の》み込みながら云った。食道楽のために身をほろぼした今宮という侍に、こんな料理を食わせたら何というだろうかなどとも考えた。

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