わけですから、甲府詰などとは違って、江戸の侍の大阪詰は決して悪いことではなかったので、今宮さんも大威張りで出かけて行ったのです。普通の旅行ではなく、御用道中というのですから、道中は幅が利きます。何のなにがしは御用道中で何月何日にはどこを通るということは、前以て江戸の道中奉行から東海道の宿々に達してありますから、ゆく先々ではその準備をして待ち受けていて、万事に不自由するようなことはありません。泊りは本陣で、一泊九十六文、昼飯四十八文というのですから実に廉《やす》いものです。駕籠に乗っても一里三十二文、それもこれも御用という名を頂いているおかげで、弥次喜多の道中だってなか/\こんなことでは済みません。主人はまあそれでもいゝとして、その家来共までが御用の二字を嵩《かさ》にきて、道中の宿々《しゅく/″\》を困らせてあるいたのは悪いことでした。
早い話が、御用道中の悪い奴に出っくわすと、駕籠屋があべこべに強請《ゆす》られます。道中で客が駕籠屋や雲助にゆすられるのは、芝居にも小説にもよくあることですが、これはあべこべに客の方から駕籠屋や雲助をゆするのだから怖ろしい。主人というほどの人は流石《さす
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