金のおふくろのお幸《こう》というのが今度の事件について先ずお調べを受けました。神明の境内で起った事件ですから、寺社奉行の係です。彼の若侍がお金を連れ出したという疑いから、こんな騒動が持ちあがったのですから、どうしてもお金とその侍との関係を詮議する必要がある。そうすれば、自然にお金のゆくえも判り、侍の身許もわかるに相違ないというので、お金のおふくろは片門前の裏借家から家主《いえぬし》同道で呼び出されました。
 お金の主人から問い合せがあった時には、お幸はなんにも知らないようなことを云っていました。今度の呼び出しを受けても、最初はやはり曖昧のことを云っていたのですが、だん/\に吟味が重なって来ると、もう隠してもいられないので、とう/\正直に申立てました。お金は桜井|衛守《えもり》という三百五十石取りの旗本のむすめで、彼の矢がすりには斯ういう因縁があるのでした。
 桜井衛守というのは本所の石原に屋敷を持っていて、弓の名人と云われた人でした。奥さまはお睦《むつ》と云って夫婦のあいだにお金と庄之助という子供がありました。衛守という人も立派な男振り、お睦も評判の美人、まことに一対の夫婦と羨まれてい
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