よ。いえ、同商売じゃありませんが、まんざら縁のない方でもないので……。番所の腰掛では一緒になったこともあるんですよ。はゝゝゝゝ。」
三浦という老人は家主《いえぬし》で、その時代の詞《ことば》でいう大屋《おおや》さんであった。江戸時代にはなにかの裁判沙汰があれば、かならずその町内の家主が関係することになっているので、岡っ引を勤めていた半七老人とはまったく縁のない商売ではなかった。ことに神田と下谷とは土地つゞきでもあるので、半七老人は特にこの三浦老人と親しくしていたらしかった。そうして、維新以後の今日まで交際をつゞけているのであった。
「むかしは随分おたがいに仲好くしていたんですがね。」と、三浦老人は笑いながら云った。「このごろは大久保の方へ引込んでしまったもんですから、どうも、出不精になって……。いくら達者だと云っても、なにしろこゝの主人にくらべると、丁度一とまわりも上なんですもの、口ばかり強そうなことを云っても、からだやあんよ[#「あんよ」に傍点]が云うことを肯《き》きませんや。それだもんですから自然御無沙汰勝になってしまって、今日《きょう》もこゝまで出て来るには眼あきの朝顔という形
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