の内済金を出して無事に済ませたそうです。主人をぶち殺された上に、あべこべに二百両の内済金を取られるなどは、随分ばか/\しい話のようですけれども、屋敷の名前には換えられません。重々気の毒なことでした。
八人の者は勿論なんにも知らないで、たゞの芸人だと思って喜路太夫を袋叩きにして、それがほんとうに死んだと判り、しかもそれが旗本の殿様とわかって、みんなも一時は途方にくれてしまったのですが、誰か悪い奴が意地をつけて、相手の弱味につけ込んで、逆ねじにこんな狂言をかいたのだと云うことです。わたくしの親父も一度柳橋の茶屋で喜路太夫の小坂さんの浄瑠璃を聴いたことがあるそうですが、それはまったく巧いものだったと云うことですから、なまじい千五百石の殿様に生れなかったら、小坂さんも天晴れの名人になりすましたのかも知れません。そう思うと、たゞ一口にだらしのない困り者だと云ってもいられません。なんだか惜しいような気もします。いつの代にも斯ういうことはあるのでしょうが、人間の運不運は判りませんね。
「いや、根っから面白くもないお話で、さぞ御退屈でしたろう。」と、云いかけて三浦老人は耳をかたむけた。「おや、降っ
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