りでなく、それが基で殿様はおなくなり遊ばしましたそうで、なんと申上げてよろしいか、実に恐れ入りました次第でございます。就きましては、その御詫として、下手人一同うち揃ってお玄関まで罷り出ましたから、なにとぞ御存分のお仕置をねがいます。」
小坂の屋敷でも挨拶に困りました。憎い奴等だとは思っても、こゝで八人の者を成敗すれば、どうしても事件が表向きになって、一切の秘密が露顕することになるので、応対に出た用人は飽までもシラを切って、当屋敷に於ては左様な覚えは曽て無い、それは何かの間違いであろうと云い聞かせましたが、八人の者はなか/\承知しない。清元喜路太夫はたしかにお屋敷の殿様に相違ない。知らないことゝは云いながら、お歴々のお旗本を殺して置いて唯そのまゝに済むわけのものでないから、こうして御成敗をねがいに出たのであるが、お屋敷でどうしても御存じないとあれば、わたくし共はこれから町奉行所へ自訴して出るより外はないと云い張るのです。
これには屋敷の方でも持てあまして、いずれ当方からあらためて沙汰をするからと云って、一旦は八人の者を追い返して置いて、それから土地の岡っ引か何かをたのんで、二百両ほど
前へ
次へ
全239ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング