ところが、こゝに一つの捫着《もんちゃく》が起った。と云うのは、なんでも或日のこと、その梅の井の門口で酔っ払いが二三人で喧嘩を始めたところへ、丁度に彼の清吉が通りあわせて、見てもいられないから留男に這入ると、相手は酔っているので何かぐず/\云ったので、清吉も癪に障って肌をぬいだ。すると、相手はせゝら笑って、「へん、刺青もねえ癖に、乙う大哥《あにい》ぶって肌をぬぐな。」とか、なんとか云ったそうです。
それを聞くと清吉は赫《かっ》となって、まるで気ちがいのようになって、穿いている下駄を把って相手を滅茶々々になぐり付けたので、相手も少し気を呑まれたのでしょう、おまけに酔っているから迚もかなわない。這々の体で起きつ転びつ逃げてしまったので、まあその場は納まりました。梅の井の家内の者も門に出て、初めからそれを見ていたのですが、その時に家の女房、即ちお金のおふくろがなんの気なしに、「あゝ、清さんも好い若い者だが、ほんとうに刺青のないのが瑕《きず》だねえ。」と、こう云った。それがお金の耳にちらり[#「ちらり」に傍点]と這入ると、これもなんだか赫として、自分の可愛い男に刺青のないと云うことが、恥かしい
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