こんなわけだから、生きた身体に刺青などと云うことは、とても虚弱な人間のできる芸ではない。清吉も近来はよほど丈夫になったと人も云い、自分もそう信じているのですが、土台の体格が孱弱《かよわ》く出来ているのですから、迚《とて》も刺青などという荒行《あらぎょう》の出来る身体ではない。勿論、方々の医師《いしゃ》にも診て貰ったが、どこでも申合わしたように、お前のからだには決して刺青なぞをしてはならぬ、そんな乱暴なことをすると命がないぞと、脅《おど》かすように誡められるのですが、当人はどうも思い切れないので、方々の刺青師にも相談してみたが、これも一応は清吉の身体をあらためて、お前さんはいけねえとかぶりを掉《ふ》るのです。医師にも誡められ、刺青師にも断られたのだから、もう仕様がない。あたら江戸っ子も日蔭の花のように、明るい世界へは出られない身の上、これが寧《いっ》そしが[#「しが」に傍点]ない半端人足だったら、どうも仕方がないと諦めてしまうかも知れないが、なまじい相当の家に生れて、立派な大哥《あにさん》株で世間が渡られる身体だけになお/\辛いわけです。
店に転がっている大勢の若い者は、みんなその
前へ
次へ
全239ページ中167ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング