と思いますが、芝神明の近所に初島《はつしま》という駕籠屋がありました。なか/\繁昌する店で、いつも十五六人の若い者が転がっていて、親父は清蔵、むすこは清吉と云いました。清吉は今年十九で、色の白い、細面の粋《いき》な男で、こういう商売の息子にはおあつらえ向きに出来上っていたんですが、唯一つの瑕《きず》というのは身体《からだ》に刺青《ほりもの》のないことでした。なぜというのに、この男は子供のときから身体が弱くって、絶えず医者と薬の御厄介になっていたので、両親も所詮こゝの家の商売は出来まいと諦めて、子供の時から方々へ奉公に出した。が、どうも斯ういう道楽稼業の家に育ったものには、堅気の奉公は出来にくいものと見えて、どこへ行っても辛抱がつゞかず、十四五の時から家へ帰って清元のお稽古かなんかして、唯ぶら[#「ぶら」に傍点]/\遊んでいるうちに、蛙の子は蛙で、やっぱり親の商売を受け嗣ぐようになってしまった。年は若し、男は好し、稼業が稼業だから相当に金まわりは好し、先ず申分のない江戸っ子なんですが、裸稼業には無くてならぬ刺青が出来ない。刺青をすれば死ぬと、医者から固く誡められているのです。
 前にも申
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