てから初めて草双紙などというものを手に取ったので、先ず第一に絵が面白い、本文も面白い。みんな夢中になって草双紙の話ばかりしている。貸本屋の方では好いお得意が出来たと思って、色々の草双紙を持ち込んでくる。それでもまあ「田舎源氏」や何かのうちは好かったのですが、だん/\進んで来て、人情本などを持ち込むようになる。先ず「娘節用《むすめせつよう》」が序開きで、それから「春色梅ごよみ」「春色|辰巳園《たつみのその》」などというものが皆んなの眼に這入って、お近さんまでが狂訓亭主人の名を識るようになると、若い女の多いこの下屋敷の奥には一種の春色が漲って来ました。今迄は半病人であったお嬢さまの顔色も次第に生々して、とき/″\には笑い声もきこえる。このごろは貸本屋があまりに繁く出入りをするので、困ったものだと内々は顔をしかめている侍たちも、それがためにお嬢さまの御病気がだん/\によくなると云うのですから、押切ってそれを遮るわけにも行かないで、まあ黙って観ているのでした。
そうして、夏も過ぎ、秋も過ぎましたが、お嬢さまはまだ本郷の屋敷へ戻ろうと云わない。お附の女中達も本郷へお使に行ったときには、好い加減
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