ですから、家にいたときに草双紙も読んでいる。芝居もとき/″\には覗いている。そういうわけですから、例の「しらぬひ譚」も知っていて、測らずもそれがお役に立ったのです。
一体お仙はどんな風にその話をしたのか知りませんが、なにしろ聴く人たちの方は薙刀や竹刀のほかには今までなんにも知らなかった連中ばかりですから、初めて聴かされた草双紙の話が馬鹿に面白い。みんなは口をあいて聴いているという始末。しかしお仙も「しらぬひ譚」を暗記しているわけでもないのですから、話に曖昧なところも出て来る。聴いている方では焦《じれ》ったくなる。それが高じて、とう/\その「しらぬひ譚」の草双紙を借りて読もうということになって、お仙がそのお使を云い付かって、牛込辺のある貸本屋を入れることになりました。
どこの大名でも旗本でも下屋敷の方は取締りがずっ[#「ずっ」に傍点]と緩《ゆる》やかで、下屋敷ではまあ何をしてもいゝと云うことになっていました。殊にそれがお嬢さまの気保養にもなると云うので、下屋敷をあずかっている侍達もその貸本屋の出入りを大目に見ていたらしいのです。くどくも云う通り、お嬢様をはじめ、お附の女たち一同は生れ
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