時間ほど語りて帰る。夜はもう薄ら寒きほどなり。当分当地に滞在する由をしたためて、東京の兄や友人らに郵書を送る。兄からは叱言《こごと》が来るかも知れねど是非なし。
二十一、二十二の二日間の日記には別に目立った記事もない。ただ森君がお冬さんと親しく往来していた事実を伝えているのみである。二十三日には折井探偵が再びこの町に姿をあらわしたと書いてある。芸妓の小せんは再び拘引された。それは磯貝から預かっていた金をそのまま着服したことが露見した為である。二十四日は無事。
二十五日、陰。微雨。――宇都宮から田島さん来たる。磯貝殺しの犯人は、鹿沼町の某会社の職工にて、昨夜再び日光の町へ入り込みしところを折井刑事に捕縛されたりという。その職工は小せんの情夫にはあらず、情夫の朋輩《ほうばい》にて小牧なにがしという者なり。田島さんの報告によれば、小牧は東京にて相当の生活を営《いとな》みいたりしが、磯貝の父のために財産を差押えられ、妻子にわかれて流転《るてん》の末に、鹿沼の町にて職工となりたる也。兇行の当夜は小せんの情夫と共に日光に来たり、ある料理店にて小せんと三人で遊んでいるうちに、小せんは二階から
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