にもいう通り、六兵衛という老人は小鳥を飼うことが大好きで、商売の傍らに種々の小鳥を飼うのを楽しみにしていた。磯貝は去年もこの町へ避暑に来て、六兵衛の店へもたびたび遊びに来るうちに、ある日小鳥の飼い方の話が出ると、六兵衛は大自慢で、自分が手掛ければどんな鳥でも育たないことはないと言った。その高慢が少し面憎《つらにく》く思われたのか、それとも別に思惑があったのか、磯貝はきっと相違ないかと念を押すと、六兵衛はきっと受合うと強情に答えた。それから五、六日経つと磯貝は一箇の薄黒い卵を持って来て、これを孵《かえ》してくれといった。見馴れない卵であるからその親鳥をきくと、それは慈悲心鳥であることが判った。
日光山の慈悲心鳥――それを今さら詳しく説明する必要もあるまい。磯貝は途方もない物好きと、富豪の強い贅沢心とからで、その慈悲心鳥を一度飼ってみたいと思い立って、中禅寺にいる者に頼んでいろいろに猟《あさ》らせたが、霊鳥といわれているこの鳥は声をきかせるばかりで形を見せたことはないので、彼は金にあかしてその巣を探させた。そうして、結局それは時鳥《ほととぎす》とおなじように、鶯《うぐいす》の巣で育つとい
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