しいとのこと也。しかし挽地物屋はほかにもたくさんあり。もうひとつの証拠はかの薄黒い雛鳥の死骸なりといえど、これは折井君も秘していわざる由。
 それを聞かされて、予はなんとなく落ちついていられず。田島さんが原稿を書いている間に、宿をぬけ出してお冬さんの家を覗きに行く。夜はもう八時過ぎなり。店先からそっとうかがえば、お冬さんの姿はみえず、声をかけても奥に返事はなし。すこし不安になりて、となりの人に訊けば、お冬さんはたった今どこへか出て行ったという。不安はいよいよ募《つの》りてしばらく考えているうちに、ふと胸に浮かびしことあり。もしやと思いて、すぐに含満ヶ渕の方へ追って行く。

     三

 森君の日記にはこれから先のことを非常に詳しく書いてあるが、わたしはその通りをここに紹介するに堪《た》えないから、その眼目だけを掻いつまんで書くことにする。森君はお冬を追って行くと、果して含満ヶ渕で彼女のすがたを見つけた。彼女はここから身でも投げるらしく見えたので、森君はあわてて抱き止めた。お冬は泣いてなんにも言わないのを、無理になだめすかして訊いてみると、彼女の死のうとする子細はこうであった。
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