御参詣でしたか。」と、お杉は笑って迎えた。
「わたしは講中の人たちと一緒にきのう来ました。」と、庄五郎も笑いながら[#「笑いながら」は底本では「笑いなから」]言った。「さっきこの宿へはいるうしろ姿が、どうもお前さん方らしいので、尋ねて来てみたらやっぱりそうでした。」
「わたし達は神奈川をけさ発って、お午《ひる》ごろに参りました。」
「それじゃあ誘い合せて来ればよかった。」と、言いながら庄五郎は少し眉を皺めた。「おかみさんといい、義助さんといい、みんな揃って怪我をしていなさるようだが、途中でどうかしなすったか。」
藤沢の宿《しゅく》で飛んだ災難に出逢ったことを、お杉と義助から代るがわるに聞かされて、庄五郎はいよいよ顔色を暗くした。彼は低い溜息を洩らしながら、座敷の片隅に寝ころんでいる四郎兵衛の顔を覗いた。四郎兵衛は熱でも出たように、うとうとと眠っていた。
あしたは鎌倉へ廻ろうか、それとも真っ直ぐに江戸へ帰ろうかというお杉の相談に対して、庄五郎は思案しながら言った。
「真っ直ぐに江戸へ帰るとすれば、もう一度その茶屋の前を通らなければならない。また何事かあると面倒だから、鎌倉をまわって帰
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