恨みの蠑螺
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)相州《そうしゅう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)京橋|木挽町《こびきちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]といって
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一
文政四年の四月は相州《そうしゅう》江の島弁財天の開帳《かいちょう》で、島は勿論、藤沢から片瀬にかよう路々もおびただしい繁昌を見せていた。
その藤沢の宿《しゅく》の南側、ここから街道を切れて、石亀川の渡しを越えて片瀬へ出るのが、その当時の江の島参詣の路順であるので、その途中には開帳を当て込みの休み茶屋が幾軒も店をならべていた。もとより臨時の掛茶屋であるから、葭簀《よしず》がこいの粗末な店ばかりで、ほんの一時の足休めに過ぎないのであるが、若い女たちが白い手拭を姐《あね》さんかぶりにして、さざえを店先で焼いている姿は、いかにもここらの開帳にふさわしいような風情を写し出していた。その一軒の茶屋の前に二挺の駕籠をおろして、上下三人の客が休んでいた。
三人はみな江戸者で、江の島参詣とひと目
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