の二種は奉行所の白洲で行われたが、他の二種は牢内の拷問蔵《ごうもんぐら》で行うのを例としていた。世間では普通に拷問と呼んでいるが、奉行所の正しい記録によると、笞打、石抱き、海老責の三種を責問《せめもん》、または牢問《ろうど》いと云い、釣し責だけを拷問というのである。しかし世間の人ばかりでなく、奉行所関係の役人たちでも正式の記録を作製する場合は格別、平常はやはり世間並にすべて拷問と称していたらしい。
 いよいよ拷問と決しても、すぐにその苦痛を罪人にあたえるものではない。吟味与力は罪人をよび出して今日はいよいよ拷問を行うぞという威嚇的の警告をあたえ、なるべくは素直に自白させるように努めるのであるが、それでも本人があくまでも屈伏しない場合には、係り役人は高声にかれの不心得を叱りつけて、さらに初めて拷問に着手するのである。しかもその拷問はなるべく笞打と石抱きとにとどめておく方針であるから、先ず笞打を行い、それでも屈伏しないものに対しては更に石抱きを行うのであるが、あまり続けさまに拷問を加えると落命する虞《おそれ》があるので、よくよく不敵の奴と認めないかぎりは、同時に二つの拷問を加えないことにな
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