っていた。
 吉五郎はその年の七月二十一日に第一回の拷問をうけた。かれが常習犯の盗賊であるのと、その体格が逞《たくま》しくみえたのとで、彼は一度に笞打と石抱きとの拷問を加えられたが、歯を食いしばり、口を閉じて、とうとう一言も白状しなかったので、その日はそのままで牢屋へ下げられた。笞打は罪人の肌をぬがせ、俗にいう拷問杖でその肩を打つのである。杖は竹切れ二本を心にして、それを麻でつつみ、更にその上を紙の観世捻《かんぜよ》りで巻きあげたもので、二、三回も打ちつづけられると大抵の者は皮肉が破れて血が流れる。牢屋の下男はすぐにその疵口《きずぐち》に砂をふりかけて血止めをして、打役の者がまたもや打ちつづけるのである。いかに強情我慢の者でも二百回以上は堪えられないので、普通は打つこと百五、六十回にして止めることになっている。そのあいだに、打役は「申立てろ、白状しろ」と絶えず責め問うのであるが、相手があくまでも口を閉じている以上、そのままにして中止するの外はない。吉五郎はこれだけの笞打をうけた後に、更に石を抱かされたのである。石抱きは十露盤板《そろばんいた》と称する三角形の板をならべた台のうえに罪人を
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