を避けることになっている。芝居や講談にはややもすると拷問の場が出るが、諸大名の領地は知らず、江戸の奉行所では前にいったような事情で甚だしく拷問を嫌うことになっている。あの町奉行は在職何年のあいだに何回の拷問を行ったといわれると、その回数が多ければ多いほど、彼の面目を傷《きずつ》けることにもなるので、よくよくの場合でなければ拷問を行わないことにしているのであるが、相手が強情でどうしても自白しない場合には、否《いや》でも応《おう》でも拷問を行う外はない。証拠の材料も揃い、証人もあらわれて、それでも相手が強情を張っているかぎりは、ほかに仕様もないのである。
わが国にかぎらず、どこの国でも昔は非常に惨酷な責道具を用いたのであるが、わが徳川時代になってからは、拷問の種類は笞打《むちうち》、石抱《いしだ》き、海老責《えびぜめ》、釣《つる》し責《ぜめ》の四種にかぎられていた。かの切支丹《きりしたん》宗徒に対する特殊の拷問や刑罰は別問題として、普通の罪人に対しては右の四種のほかにその例を聞かない。しかも普通に行われたのは笞打と石抱きとの二種で、他の海老責と釣し責とは容易に行わないことになっていた。前
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