をうけるわけには行かなかったが、実際はその以上に優遇された。牢名主の声がかりというので、彼は普通の囚人とは全然別格の待遇をうけて、他の囚人どもを手下のように使役するばかりでなく、三日に一度ぐらいは鰻飯などを食って贅沢に生活していた。たびたびの拷問をうけて、かれは定めて疲労衰弱したであろうと想像されるが、実際はそれと反対で、彼はますます肥満して入牢前よりは寧《むし》ろ壮健であるらしくみえた。生来虚弱の者は格別、壮健の者が幾回の拷問を凌いでくれば、いよいよ頑丈な体質になるものであると牢内ではいい伝えている。吉五郎はますます壮健になって、牢内の人気役者となって、新しい手拭を使って、うなぎ飯を食って、大威張りで日を送っていたのであった。
かれが最初に強情を張っているのは、一日でも生き延びようとする執着心か、あるいは係りの役人たちに対する一種の反感から湧いて来た意地ずくか、いずれはそんなものであったらしいのであるが、今日の彼は寧ろ一種の虚栄心ともいうべきものに支配されていた。一回でも拷問を堪えれば堪えるほど、かれの器量が上《あが》るのである。石川五右衛門の値打が加わるのである。牢内の者にも讃美
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