りであるのに、吉五郎は已《すで》に八回までも堪え通したのであるから、牢内では立派な男として褒められた。
奉行所では根気よくこの強情な罪人を調べなければならなかった。他の公事《くじ》が繁多のために、六月中は中止されて、七月一日からまたもや吉五郎の吟味をはじめた。係りの役人たちもあせってきたのであろう。かれは一日から八日までのあいだ殆ど隔日の拷問をうけた。前後八回で、やはり笞打と石九枚ずつであった。越えて二十七日には笞打と石七枚、それでも彼はちっとも屈しないので、八月十八日には更に手ひどい拷問を加えられた。この日は笞打なしで、単に石七枚だけであったが、その代りに昼四つ時(午前十時)から夕七つ(午後四時)まで重い石を置かれていた。このおそろしい根くらべにも打ち勝って、かれは無事に牢内へ戻って来て、他の囚人どもを驚かした。第一回以来、かれは前後十八回の拷問をうけながら遂に屈伏しないというのは、伝馬町の牢獄が開かれてから未曾有のことで、拷問に対して実に新しいレコードを作ったのであるから、かれは石川五右衛門の再来として牢内の人気を一身にあつめた。
未決の囚人であるから、かれはいわゆる役附の待遇
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