され、優遇されるのである。所詮大罪は逃れぬと覚悟している以上、責め殺されるまでも強情を張り通して、自分の器量をあげた方がいいと考えたのは、彼として自然の人情であったともいえる。ただその拷問の苦痛に堪え得るか否かというのが問題であった。
 こういうたぐいの罪人に対しては、理非をいい聞かせても無駄である。普通の拷問を加えても無効である。奉行所ではかれに対して更に惨酷なる拷問を加えることになって、九月二十二日には笞打のほかに海老責を行った。海老責は罪人を赤裸にして、先ず両手をうしろに縛りあげ、からだを前にかがめさせて、その両足を組みあわせて厳しく引っ縛り、更にその両足を頤《あご》にこすり付くまでに引きあげて、肩から背にかけて縛りつけるのであるから、彼は文字通りに海老のような形になって、押潰されたように平《へ》た張《ば》り伏しているのである。この拷問をうけるものは、はじめは惣身が赤くなり、更に暗紫色に変じて冷汗をしきりに流し、それがまた蒼白に変じるときは即ち絶命する時であるといい伝えられているので、皮膚に蒼白の色を呈するのを合図にその拷問を中止することになっていた。吉五郎はこの試錬をも通過して
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