税之助はひどく立腹して「翌日は池を替え、乾かしてしまう」と言いました。
するとその夜、主税之助が寝ているところへ池の蝦蟇がやって来まして、「どうか助けてくれ」と頼みました。そうして、「もし火事などのある場合には、水を吹いて火事を防ぐから」というようなことをいいました。
しかし、主税之助は、「ただ火事の時に水を吹いて火を消すというだけではいけない。それは俺《おれ》の一家の利益に過ぎない。なにか広い世間のためになることをするというならば許してやろう」といいますと、蝦蟇は、「では、火傷《やけど》の呪《まじない》を教えましょう」といって、火傷の呪を教えてくれたそうで、その伝授に基いて、山崎家から「上の字」のお守を出していました。それが不思議に利くそうです。
お守りは熨斗形《のしがた》の小さいもので、表面《おもて》に「上」という字を書いてその下に印を押してあります。その印のところで火傷を撫《な》でるのですが、なんでも印のところに秘方の薬がつけてあるということです。
錦袋円《きんたいえん》の娘、池の端《はた》(いまの台東区池之端一丁目一番、同上野二丁目一一・一二番)に錦袋円という有名な薬屋
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