て、三之助の話は本当であるらしいと言った。
嘘も本当もない、いっさいは伯父が白状しているのである。そこで夫婦は額をあつめて、密々の相談に時を移したが、ここで自分たちが強情を張り通して、みすみす万屋の店を潰してしまうのは、親類一門として忍びないことである。それがこの時代の人々の弱い人情であった。さらに困るのは、お妻が嫁入りのことを町内じゅうでもすでに知っているのである。それを今更破談にするのは世間のきこえがよくない。あるいはそれがいろいろの邪魔になって、さなきだに縁遠い娘を一生|瑕物《きずもの》にしてしまうおそれがないともいえない。
「もうこの上は仕方がない。そのわけをお妻によく言い聞かせて、当人の料簡《りょうけん》次第にしたらどうだ。当人が承知なら決める、いやならば断わる。それよりほかない。」と、由兵衛は言った。
お峰もそれに同意して、早速お妻を呼んで相談すると、かれは案外素直に承知した。
「横浜から帰るときに、あのお婆さんが経帷子を置いて行ったのも、所詮《しょせん》こうなる因縁でしょう。まして見合も済み、結納も済んだのですから、わたしも思い切って井戸屋へ参ります。」
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