と、三之助はさらに説明した。「身内から貰った養子は自分の実子と同じように、みんな死んでしまうので、どうしても縁のない他人に継がせる事になるのだそうです。」
「変だねえ。」
「変ですよ。」
「そのばあさんというのが祟《たた》っているのかしら。」
「まあ、そういう噂ですがね。」
こんなことを言うと、折角の縁談に水をさすようにも聞えるので、いっそ黙っていようかと思ったが、知っていながら素知らぬ顔をしているのもよくないと思い直して、ともかくもこれだけのことをお耳に入れて置くのであるから、かならず悪く思って下さるなと、三之助は言訳をして帰った。
それと入れ違いに由兵衛が帰って来たので、お峰は早速にその話をすると、由兵衛も眉をよせた。淀橋と芝と遠く離れているので、井戸屋にそんな秘密のあることを由兵衛夫婦はちっとも知らなかったのである。三之助の話を聞いただけでは、そのばあさんが一途《いちず》に井戸屋を恨むのは無理のようにも思われるが、今更そんなことを論じても仕様がない。ともかくそんな呪《のろ》いのある家に、可愛い娘をやるかやらないかが、差しあたっての緊急問題であった。
「万屋の伯父さんはそんな事
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