鯉
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)中《ちゅう》二階の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)新堀|端《ばた》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]と
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一
日清戦争の終った年というと、かなり遠い昔になる。もちろん私のまだ若い時の話である。夏の日の午後、五、六人づれで向島へ遊びに行った。そのころ千住の大橋ぎわにいい川魚料理の店があるというので、夕飯をそこで食うことにして、日の暮れる頃に千住へ廻った。
広くはないが古雅な構えで、私たちは中《ちゅう》二階の六畳の座敷へ通されて、涼しい風に吹かれながら膳にむかった。わたしは下戸であるのでラムネを飲んだ。ほかにはビールを飲む人もあり、日本酒を飲む人もあった。そのなかで梶田という老人は、猪口《ちょこ》をなめるようにちびりちびりと日本酒を飲んでいた。たんとは飲まないが非常に酒の好きな人であった。
きょうの一行は若い者揃いで、明治生れが多数を占めていたが、梶田さんだけは天保五年の生れというのであるから、当年六十二歳のはず
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