宮を詮議してその秘密の鍵を握ろうと決心した。
宿の前まで来ると、かれは再びきのうの巡査に逢った。
「やっぱりなんにもお心付きはありませんか。」と、巡査は訊いた。
「どうもありません。」と、遠泉君は冷やかに答えた。
「古屋為子がもう少しこころよくなったら、警察へ召喚して取り調べようと思っています。」と、巡査はまた言った。
警察はあくまでも為子を疑って、いろいろに探偵しているらしく、東京へも電報で照会して、かの女学生たちの身許や素行の調査を依頼したとのことであった。遠泉君は漁師から聞いたあばた蟹の話をすると、巡査はただ笑っていた。
「ははあ、わたしは近ごろ転任して来たので、一向に知りませんがねえ。」
「御参考までに申し上げて置くのです。」
「いや、判りました。」
巡査はやはり笑いながらうなずいていた。彼が全然それを問題にしていないのは、幾分の嘲笑を帯びた眼の色でも想像されるので、遠泉君は早々に別れて帰った。
午後になって、東京から亀江の親戚がその屍体を引き取りに来た。屍体はすぐに火葬に付して、遺髪と遺骨とを持って帰るとのことであった。その翌日、元子は遺骨を送って東京へ帰った。柳子は
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