店の婆さんを呼んで訊くと、かの猫はまだ四、五年にしかならないのだが、途方もなく大きくなったので、不思議を通り越してなんだか気味が悪い。あんな猫は今に化けるだろうと近所の者もいう。さりとて捨てるわけにも行かず、殺すわけにも行かず、飼主の私も持て余しているのだと、婆さんは話した。
 それを聞いて、夫婦は直ぐに商売気を出して、あの猫をわたしたちに売ってくれないかと掛け合うと、婆さんは二つ返事で承知した。
 飼主が持て余している代物だから、値段の面倒はない。婆さんは唯《ただ》でもいいと言うのだが、まさかに唯でも済まされないと、友蔵は一朱の銀《かね》をやって、その猫をゆずり受けた。」
「そんなに大きい猫をどうして持って帰ったでしょう。」と、青年は首をかしげる。
「どうして連れて帰ったか、そこまでは聞き洩らしたが、その大猫を江戸まで抱え込むのは、一仕事であったに相違あるまい。ともかくも本所の家へ帰って来ると、弟の幸吉はその猫をみてたいへんに喜んで、これは近年の掘出し物だという。両国の小屋に出ている者も覗きに来て、こんな大猫は初めて見たとおどろいている。こうなると友蔵夫婦も鼻を高くして、これも成田さ
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