だから、相当の値段で売ってもいいということになった。
 しかしその相場がわからない。興行師の方ではなるたけ廉く買おうとして、まず三両か五両ぐらいから相場を立てたが、漁師たちにも慾があるから素直に承知しない。だんだんにせり上げて十両までになったが、漁師たちはまだ渋っているので、友蔵兄弟は思い切って十二両までに買い上げると、漁師たちもようよう納得しそうになった。と思うと、その横合いから十五両と切出した者がある。それは奥山に、定小屋を打っている由兵衛という興行師であった。友蔵たちは十二両が精いっぱいで、もうその上に三両を打つ力はなかったので、鯨はとうとう由兵衛の手に落ちてしまった。」
「兄弟は鼻を明かされたわけですね。」
「まあ、そうだ。それだから二人は納まらない。由兵衛は漁師たちに半金の手付を渡し、鯨はあとから引取りに来ることに約束を決めて、若い者ひとりと共に帰って来る途中、高輪の海辺の茶屋の前へさしかかると、そこに友蔵兄弟が待っていて、由兵衛に因縁をつけた。漁師たちが十二両でも承知しなかったものを、由兵衛が十五両に買い上げたのならば論はない。しかし十二両で承知しそうになった処へ、横合いか
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