は友蔵にむかって、『やあ、友さん、久しぶりだ。実は今おかみさんから十両貰って来た。どうも有難う』と、礼をいうのか、忌がらせをいうのか、こんな捨台詞《すてぜりふ》を残して立去った。それを聞かされて、友蔵はおもしろくない。急いで家へ帰って来て、なぜ由兵衛に十両の金をやったと、女房のお常を責める。お常は虎の子の一件を話したが、友蔵の胸は納まらない。たとい口留めにしても、十両はあまり多過ぎるというのだ。
由兵衛が他人ならば、多過ぎるというだけで済んだかも知れないが、由兵衛とお常とのあいだには昔の関係があるので、そこには一種の嫉妬もまじって、友蔵はなかなか承知しない。亭主の留守によその男を引入れて、亭主に無断で十両の大金をやるとは不埓千万だ。てめえはきっと由兵衛と不義を働いているに相違ないと、酔っている勢いでお常をなぐり付けた。すると、お常は赫《かっ》となって、そんなら私の面晴《めんばれ》に、これから由兵衛の家へ行って、十両の金を取戻して来ると、時雨の降るなかを表へかけ出した。」
「これは案外の騒動になりましたね。」
「友蔵は酔っているから、勝手にしやあがれと寝てしまった。そのあとへ幸吉が帰っ
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