て来たが、これも酔っているのでぶっ倒れてしまった。その夜なかに叩き起されて、お常は山谷の由兵衛の家に死んでいるという知らせがあったので、兄弟もおどろいた。
酒の酔いもすっかり醒めて、二人は早々に山谷へ飛んで行くと、お常は手拭で絞め殺されていた。由兵衛のすがたは見えない。
家内の取散らしてあるのを見ると、お常を殺した上で逃亡したらしい。
由兵衛がどうしてお常を殺したか、その事情はよく判らないが、かの十両を返せと言い、その争いから起ったことは容易に想像される。友蔵が嫉妬心をいだいていると同様に、由兵衛も嫉妬心をいだいている。むしろ友蔵以上の強い嫉妬心をいだいていたであろうから、それが一度に爆発して俄にお常を殺す気になったらしい。お常の死骸は検視の上で友蔵に引渡された。
虎の子が飛んでもない悲劇を生み出すことになったが、それでも其の秘密は世間に洩れなかったと見えて、友蔵の小屋は相変らず繁昌していると、ここにまた一つの事件が起った。今度は大事件だ。」
「人殺し以上の大事件ですか。」
「むむ、その時代としては大事件だ。虎の子の観世物は十月から始まって、十二月になっても客は落ちない。女房に
前へ
次へ
全19ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング