面を本物の竹藪にして、虎狩の唐人どもがチャルメラや、銅鑼《どら》や鉦《かね》を持って出て、何かチイチイパアパア騒ぎ立てて藪の蔭へはいると、そこへ虎の子を曳いて出る。虎の首には頑丈な鉄の鎖がつないである。
藪のかげではチャルメラを吹き、太鼓や銅鑼や鉦のたぐいを叩き立てるので、虎猫もそれにおびやかされて声を出さない。万一それがニャアと啼きそうになると、それを紛らすように、銅鑼や鉦をジャンジャンボンボンと激しく叩き立てるのだ。いや、笑っちゃいけないというのに……。昔の両国の観世物なぞは大抵そんなものだ。」
「その観世物は当りましたか。」
「当ったそうだ。おまけにこの虎猫は奥山の鯨とちがって、生きているのだから腐る気づかいはない。せいぜい鰹節か鼠を食わせて置けばいいのだ。それで毎日大入りならば、こんなボロイ商売はない。
友蔵兄弟も大よろこびで、この分ならば結構な年の暮が出来ると、お常も共に喜んでいると、ここに一つの事件が出来《しゅったい》した。
かの奥山の由兵衛は、鯨で大損をしてから、いわゆるケチが付いて、どうも商売が思わしくない。その後にもいろいろの物を出したが、みんなはずれる。したが
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