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雲哲 又のら大が出て來やあがつたか。
願哲 貴樣も殺されるな。叱《し》つ、叱つ。
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(ふたりに逐はれて犬は上のかたへ逃げ去る。)
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おかん (云譯らしく。)あの野良犬にやあ困るねえ、だれを見てもすぐ吠えるんだから。
權三 犬だつて可愛くねえ奴にやあ吠《ほ》えるのだらう。よく考へてみると、成程こりやあ八の云ふ通りで、折角のおこゝろざしは有難てえが、どうもおまへさんからこんな物を貰ひたくねえ。お禮にしてもお祝ひにしても、これは持つて歸つて貰はう。おい、助。さつきから無暗にあやまつて、損をしたやうだぜ。
助十 おれもさう思つてゐるのだ。(勘太郎に。)まつたくおめえの云ひ草は御殿女中で、忌《いや》にチク/\當るやうだ。堪忍しねえなら堪忍しねえ、恨みを云ひに來たなら恨みを云ひに來たとはつきり[#「はつきり」に傍点]云つてくれ。面當てらしく酒や肴を持つて來て、眞綿に針で人をいぢめようとするのは、江戸つ子らしくねえ仕方だ。
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