達は随分不人情だよ。
六郎 まつたく女房のいふ通りだ。せめておれだけにも内々で話して置いおくれゝば、なんとか仕樣のあつたものを……。(叱るやうに。)それほどの事を知つてゐながら、今まで口をふいて默つてゐるとは何のことだ。つまり貴樣達が彦兵衞さんを見殺しにしたやうなものだ。これ、彦三郎さん。お前さんのお父さんのかたきはこの權三と助十だ。なんの、禮をいふことがあるものか。わたしが證人になつてやるから、こゝで立派にかたき討をしなさい。
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(權三と助十はびつくりする。)
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權三 と、とんでもねえ。なんでおれ達が仇なものか。
助十 かたきと云ふのは勘太郎だ。
權三 あの勘太郎だ。
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(云ひながら二人は逃げかゝる。)
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六郎 待て、待て。貴樣たちが逃げたからと云つて濟むわけのものではない。かたき討は免《ゆる》してやる代りに、その罪ほろぼしに彦三郎さんの味方をするか。
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