らあ知らねえ、知らねえ。
權三 知らねえことがあるものか。おれと相棒をかついでゐたんぢやあねえか。
おかん (權三に。)もし、お前さん。そんな人にかまはないで、知つてゐることがあるなら早く云つておしまひなさいよ。あたしも何だか聽きたくなつて來たからさ。
彦三郎 (すり寄る。)どうぞ早く話して下さい。
權三 たうとうおれが人身御供《ひとみごくう》にあげられてしまつたか。ぢやあ、まあ話しませう。今もいふ通り、天水桶で袖を洗つてゐるだけならば、別に不思議と云ふほどのことでもねえが、そいつが光るものを持つてゐる。
六郎 光るものを持つてゐた……。それから何うした。
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(人々はすり寄つて聽く。)
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權三 その光るものを水で洗つてゐたんですよ。
六郎 天水桶で袖を洗ひ、何か光るものを洗つてゐたのだな。その光る物といふのは刃物らしかつたか。
權三 どうもさうらしいやうでした。それでもその時はたゞ變な奴だと思つたばかりで通り過ぎてしまつたのですが、明る朝になつて聞いてみると、その晩馬喰
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