しかし東の白らむ頃から雨も風もだんだん鎮まって、あくる朝はうららかに晴れた日となったが、どこの家にも相当の被害があったらしい。父は自分の家の構え内を見まわって歩くと、前にいった立木や塀の被害のほかに、西側の高い崖がくずれ落ちているのを発見した。幸いにその下は空地であったが、もしも住宅に接近していたらば、わたしの家は潰《つぶ》されたに相違なかった。
 早速に出入りの職人を呼んで、くずれ落ちた土を片付けさせると、土の下から一人の男の死体があらわれた。男は崖くずれに押し潰されて生き埋めとなったのである。かれは手に鍬《くわ》を持っていた。警察に訴えてその取調べをうけると、生き埋めになった男は、女房殺しの森川権七とわかった。
 権七はかの事件以来、どこかに踪跡《そうせき》を晦《くら》ましていたのであるが、どうしてここへ来てこんな最期を遂げたのか、だれにも想像がつかなかった。
「やっぱりわたしの想像があたっていたらしい。」と、父は母にささやいた。
 空地の草原へ穴を掘りに来た者は、おそらく権七とおいねであったろう。父が想像した通り、かれらは何かの埋蔵物を掘出すために、幾たびか忍んで来たらしい。権
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